「生命医薬情報学連合大会(IIBMP2018)年大会」でELSIに関するAMEDによるセッションを実施 ~データシェアのための課題を共有(2018/9/19)

2018年9月19日(水)〜21日(金)の3日間、山形県鶴岡市・荘銀タクト鶴岡と鶴岡アートフォーラムを会場に「生命医薬情報学連合大会(IIBMP)2018 年大会」が開催され、19日にAMEDによるセッション「生命医薬情報学領域における倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を考える」を実施しました。


写真1:セッション会場の様子(荘銀タクト鶴岡 大ホール




冒頭、座長の長神 風二先生(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)は、本セッションでは先端生命科学や医療研究開発にまつわるELSIに関して取り組む若手研究者・4名からご報告いただいたうえで、フロアとの議論を交えながら、生命医薬情報学領域におけるELSI について考察を深めたいと挨拶し、続いて勝井 恵子主幹(AMED 基盤研究事業部 バイオバンク課)から、ELSIを知らない、詳しくない方にもわかりやすいよう導入と趣旨説明がなされました。

発表では、まず、山本 奈津子先生(大阪大学 データビリティフロンティア機構)が、ヒトデータの流通や利活用を推進して医学研究を発展させることを前提に、①研究を始めるにあたって患者等から得たデータを用いるために守るべき研究倫理指針等について話されました。次に、②今後さらなるデータ利活用を目指す分野の動向として、提供したデータの利用について、データ提供者側の納得感を得るためのメカニズムの構築や、本人のデータへの権利の拡大が起きていることが述べられました。最後に、③医学全体を進めるためには、データ提供者側の納得感だけでなく、データを利用して新たな価値を創出している研究者等といった、データ利活用側の様々な当事者についても、十分な契約等に基づいた権利確保と公正な利益配分を考慮し、納得感を得ていくことが、データの死蔵を防ぎ流通や利活用を高める上で重要とし 、加えて、個人情報保護法改正等の法規制の動きはアカデミアに無関係ではなく、今後に向けて、意見を出す必要性があるとの私見も示しました。

森田 瑞樹先生(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)は、病院併設型である岡大バイオバンクで経験しているELSIの課題について述べ、続けて課題の解決に向けた提案をされました。具体的には、試料のみならず情報(遺伝情報や臨床情報)に由来するリスクを評価し軽減できるようにすること、試料・情報の取得から最終的な廃棄までの記録(いつ誰から誰の手に渡り、どこで保管されているかなど)を管理できるようにすること、包括同意の取得時に想定されなかったリスク・ベネフィットを任意の時点で評価し伝達できるようにすることを挙げ、それぞれが対策を求めているとして、参考になる対策の例が紹介されました。「これらを示すのは、情報系の研究者であれば解決に向けて技術的な実装ができるとの期待を持っているから。ぜひ、実装を試みていただきたい」とのアピールがありました。

相澤 弥生先生(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)は、認定遺伝カウンセラーの立場から、ゲノム解析研究における偶発的所見/二次的所見を含む個人の遺伝情報の結果返却に関するELSI、遺伝カウンセリングの課題等が話され、医療で行われている遺伝カウンセリングを1つの例として挙げながら、研究における結果返却においても同様に、(遺伝に関する)情報提供を一方的にするのではなく、研究参加者に対する個別の対応を行っていくことの難しさと課題に触れました。

最後に、八田(はった)太一先生(京都大学 iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門)から、再生医療を提供するクリニックのWebサイト情報と規制の動向が報告され、再生医療とゲノム医療の一部が自由診療として提供されることから派生する社会的課題、インターネットを介した情報提供の問題に対する近年の法律改正、そして新しい医療技術に対する患者の期待から生じる倫理的課題に触れました。「ELSIは倫理的課題、社会的課題、法律的課題が独立に存在するのではなく、それらが複雑に絡み合った現象として立ち現れるものである。ELSIを議論する際には、その構造に留意する必要があるだろう」と論じていました。

質疑応答では、来場者から「リスクとベネフィットはトレードオフだとして、リスクは想定して示せるが、ベネフィットとしてはどんなことが挙げられるのか?」との質問がなされ、これに対して森田先生は、岡山大学は疾患型バイオバンクであるが現状直接的なものはない」と回答。長神先生が「特に疾患型バイオバンクでは(直接的なベネフィット還元は)難しい。研究の進展への貢献、それをベネフィットというよりはモチベーションとして感じていただけるかどうか」と補足されました。

これらの発表を受けて、最後に長神先生は「今日は複雑に絡み合ったELSIの多様な一端が語られた。研究参加者からは時に、個別の診療への応用への期待をはじめ、さまざまな思いを寄せられるが、例えば健常者から得たゲノム解析結果がどのように研究において役立つのかなど、限界も含めてきちんとお示しし、その説明の仕方、言葉が研究参加者にわかりやすいよう配慮しながら同意を受け研究等につなげなければならない。今後の研究の進展では、今日示されたような多様な課題が結びついたかたちで直面していくだろう」と発言し、締めくくりました。


IIBMP2018_3.jpg

写真2:本セッションの座長と演者(左から、長神先生、山本先生、森田先生、相澤先生、八田先生)




【参考資料】
生命科学連携推進協議会「よくわかる!はじめてのELSI講座」
http://platform.umin.jp/elsi/elsi.html